脊椎脊髄疾患研究センター

概要

 東北大学整形外科教授を定年となり、若い頃に15年間お世話になった当院に 脊椎脊髄疾患研究せきついせきずいしっかんけんきゅうセンター長として戻ってから、早10年となりました。当初は手術に加わっておりました。しかし、間もなくして、現役の先生方の優れた知識、診断力と手術の技量が確認できましたので、それ以降は、複雑な病態・手術の患者さんについて相談を受ける以外は外来での診療を担当し、他方で論文の執筆、国内・外での講演などで過ごしております。
 その外来で、詳しい問診と丁寧な触診を通した研究から驚きの事実を発見しました。身体の痛みの85%以上を占め、「正直なところ、原因不明」と言われてきたものが筋肉の過度の緊張から生じるのです。
 そうした痛みは、 頚椎けいつい腰椎ようつい脊椎せきつい、肩などの関節からの痛みと捉えられて、頚肩腕症候群けいけんわんしょうこうぐん肩関節周囲炎かたかんせつしゅういえん胸郭出口きょうかくでぐち症候群、むちうち症、変形性脊椎症へんけいせいせきついしょうと診断される、あるいは神経が圧迫される腰椎の椎間板ついかんばんヘルニアや脊柱管狭窄症せきちゅうかんきょうさくしょうなどと誤診されることが少なくありません。慢性・多発性など多彩な痛みですと、線維筋痛症せんいきんつうしょう神経障害性疼痛しんけいしょうがいせいとうつう、身体・心理・社会的症候群などの概念的な病名で説明されがちです。こうした誤りは、筋肉が痛みを出すと教えられてこなかったからです。

 次々と明らかになった事象を整理・統合し、教科書に記載がない診察・診断法、 局所麻酔剤きょくしょますいざいを注射するブロック療法、更に患者さん自身が筋肉をストレッチする自己療法が出来上がりました。
緊張(トーヌス)が強くなった筋肉は、診察で、芯がコリっと硬く触れ、 圧搾あっさくあるいは伸長しんちょうすると激痛が生じます。筋硬症きんこうしょうです。四肢・首~腰の曲げ伸ばし、物の上げ下げなどの動作で激痛が、じっとしていても張り・りの苦痛が生じるのです。硬くなり痛みを出しやすい筋肉にK点筋群きんぐん個別独立筋こべつどくりつきんの2種類があります。他方、柔らかい筋肉は痛みを出しません。


図1 K点の位置
後頭部と首すじの境目、胸鎖乳突筋・鎖骨後頭骨頭の頭側筋腱移行部に一致する。

 筋肉に触れる診察によってのみ、1~数個の痛みを出している筋肉( 責任筋せきにんきん)が明らかになります。次いで、自己ストレッチを行って貰い、それに責任筋が反応すれば、筋硬症の診断が確定します。その後、確実な治療効果を狙ってブロック療法を行います。

 K点筋群は40個ほどの筋肉がメンバーです。それらが首いた、目のしょぼしょぼ( 眼精疲労がんせいひろう)、側頭部痛そくとうぶつうあごの痛み、五十肩ごじゅうかた前腕ぜんわんの痛み、肋間神経痛ろっかんしんけいつう、ぎっくり腰、慢性腰痛まんせいようつう、尻たぶの痛み(当たって痛いので椅子に長い時間座っていられない)、ももの付け根である鼠蹊部そけいぶの痛み、膝の内側の痛み、手・足のしびれなどに関わります。そうした痛みと、その結果の日常生活の不具合を併せてK点症候群と呼んでいます。 後頭部こうとうぶと首すじの境目、胸鎖乳突筋きょうさにゅうとつきん鎖骨後頭骨頭さこつこうとうこつとう頭側筋腱移行部とうそくきんけんいこうぶに一致して、K点と名付けた圧痛点あっつうてん があります(図1)。


図2 K点症候群の自己療法:ブーケトス・ストレッチ
a: 肘を伸ばし、耳の横で腕を出来るだけ高く挙げる。
b: 腕を高く保ったまま、手で肩を叩くように一気に肘を曲げる。3度行う。
片腕だけであれば同側の、両腕同時なら両側のK点筋群が柔らかくなる。
 K点に少量のブロック(K点ブロック)を行うと、それに反応して、全てのメンバーが一斉に柔らかく、しなやかな、痛みのない状態となります。自己療法は 上腕三頭筋じょうわんさんとうきん長頭ちょうとう のブーケトス・ストレッチと ももの内側にある薄筋はくきん のチャップリン・ストレッチが有効です(図2)。

 これまでに26個の個別独立筋が確認されています。肩こりの上部 僧帽筋そうぼうきん、背中の痛みの下部僧帽筋、腰痛の腰方形筋ようほうけいきん殿部痛でんぶつう(立ち上がる時に何かに手をつきたくなる)の上部大殿筋だいでんきん、膝の内側の痛みの半膜様筋はんまくようきんすねから足の内側の痛み・むくみのヒラメ筋などです。K点ブロックが無効でして、責任筋そのものにブロックを行います。自己療法は責任筋のそれぞれに応じたストレッチを行います。例えば、上部大殿筋のストレッチは、痛い側のももを上にして脚を組み。両手をその腿から膝の外側にあてがい、反対側へ引きます(図3)。


図3 上部大殿筋(個別独立筋)からの痛みの自己療法

痛みで、立ち上がる時、何かに手をつきたくなる。

a: 大殿筋の解剖
b: 痛みの自覚部位
c: 痛い側を上にして脚を組む。
両手を腿から膝の外側にあてがい反対側へ引く。
3度行う。



 ストレッチ法を指導し、行って貰いますと、即座に患者さんに微笑みが戻る、腕が挙がる、腰が伸びる、杖が要らなくなる、・・・が起こります。決して魔法ではありません。科学的事実です。

 仕事・家事が辛い、薬が効かないなど、痛みで苦しんでおられる方、受診ください。

 家族の同伴をお勧めします。痛みがどれほどか、家族でも理解できません。診察と自己ストレッチによって一つ一つ痛みが消え、ないし軽くなる度に、患者さんは勿論のこと、心配していた同伴の家族も患者さんが微笑むのを見て、「ああすれば、なおるのだ!」と納得できるはずです。ストレッチ療法は日常生活のなかで行えます。家族の皆さんが安堵し明るくなれます。



センター長 紹介

脊椎脊髄疾患研究センター長 
国分 正一

 

昭和43年 3月 東北大学医学部卒業
昭和50年 4月 国立療養所仙台西多賀病院整形外科医長
平成 7年 4月 東北大学整形外科教授
平成18年 3月 同定年退職
平成18年 4月 東北大学名誉教授
   
平成 4年 オックスフォード大学整形外科に留学
平成16年 5月 第77回日本整形外科学会学術総会会長
平成17年 6月 第34回日本脊椎脊髄病学会学術集会会長
   
中国吉林大学 名誉教授(1996)
香港大学 訪問教授(1996・2011)
ホーチミン市 名誉市民(1996)
国際整形災害外科学会 日本代表(1999-2005)
アジア太平洋整形外科学会 日本主席代表(2001-2006)
タイ王立整形外科医協会 名誉会員(2004)
シンガポール大学 訪問教授(2006)
  現在:
整形災害外科学研究助成財団理事長

 
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